移動平均線トレンドフォロー戦略:MAで大きな波に乗る
この記事では、移動平均線(MA)を活用したトレンドフォロー戦略について解説します。
多くの人が「移動平均線は支持・抵抗である」と学びますが、
実戦では次のように捉える方が現実に近いです。
「移動平均線は現在のトレンドの中心線であり、
その付近への戻り(押し目)はトレンドに乗る機会になり得る。」
つまり、一本の線が価格を支配するというよりは、
すでに形成されたトレンドの中で「どのあたりで安く/リスクを抑えて合流できるか」を
整理するためのツールとして見るのが現実的です。
下の図解は:
- 左側:明確な上昇トレンドにおいて
MA付近の押し目ごとにエントリーしてトレンドについていく例 - 右側:ボックス相場(レンジ)において
同じMA基準を適用した際に頻繁に損切りが発生する例
を比較して示しています。
この違いを理解することは:
- MAトレンドフォロー戦略がうまく機能する環境と
- ただ損切りだけが続く環境
を区別する上で大きな助けとなります。
1. 戦略の基本アイデア
移動平均線トレンドフォロー戦略の核心は、次の2行に要約できます。
- トレンド系インジケーター で扱ったように、
MAの傾き・配列で大きな方向(トレンド)を先に決める。 - その方向に対して:
- 押し目(pullback) が発生した時、
- または調整後の再ブレイク(re-breakout) が発生した時に
エントリーし、トレンドが無効化されるまで可能な限り長く保有する。
実戦例を簡単に描いてみると:
- 日足基準の上昇トレンド:
- 価格がMA(例:20〜60日線)の上で推移し、
- MAが右肩上がり。
- エントリー:
- 価格がMA付近まで調整 →
ローソク足の基本 で見た強い買いローソク足が登場 → エントリー。
- 価格がMA付近まで調整 →
- 損切り:
- 直近のスイング安値を明確に割り込むか、
- 複数のローソク足がMAの下で確定。
- 決済:
- 大きな絵のスイングが終わり、
スイング vs 調整 の観点で
反対方向のスイングが始まったと判断される地点。
- 大きな絵のスイングが終わり、
2. どのMAを使うか?(短期・中期・長期の組み合わせ)
2-1. 1本のMAだけでも十分
最初はMA一本だけでも十分です。
- 例:日足20MA、50MA、60MAなど
- 基準:
- 「自分がスイングを見る期間」に合ったMAを選ぶことが重要です。
- デイトレーディング中心なら20MA、
スイング・ポジショントレーディングなら50〜60MAといった具合に調整します。
2-2. 短期・長期の2本組み合わせ
少し慣れてくると、短期+長期MAの組み合わせを使うようになります。
- 例:20MA(短期)+60MA(長期)
- 価格が長期MAの上にある時だけロングを検討し、
- 短期MA付近の押し目でエントリーを狙う形。
この組み合わせは:
- 60日移動平均線戦略 にて
より具体的なスイング戦略へと拡張されます。
2-3. 「数字」より「役割」が重要
MAの数字は市場・商品・スタイルによって変わる可能性がありますが、
次の2つの役割はほぼ共通しています。
- 長期MA:
「今この銘柄をロングで見るか/ショートで見るか」を決定する
方向フィルター - 短期MA:
その方向の中での押し目エントリー基準、または
トレーリングストップ基準
つまり、「20 vs 21 vs 25 のどれが良いか?」よりも、
「このMAを戦略の中でどのような役割として使うか?」の方が重要です。
3. エントリーシナリオ:押し目 vs ブレイクアウト
MAトレンドフォロー戦略でよく使われるエントリー方式は大きく2つです。
- 押し目(Pullback)エントリー
- ブレイクアウト(トレンド再開)エントリー
3-1. 押し目(Pullback)エントリー
- 条件例:
- 日足基準で価格が長期MAの上で右肩上がり
- 短期調整で価格がMA付近まで下落
- ローソク足の基本 で見た
強い買いローソク足、長い下ヒゲ、小さな同時線+次の陽線などが登場
- エントリー:
- 該当ローソク足の終値、または次のローソク足の初動でエントリー
- 損切り:
- すぐ下のスイング安値、またはMAの下一定%の区間
下の図解は:
- 左側:上昇トレンド中にMA付近の押し目で
複数回に分けてエントリーする例 - 右側:押し目なしで急騰する区間で
追いかけずに静観する例
を対比して示しています。
3-2. ブレイクアウト(トレンド再開)エントリー
- 条件例:
- 日足上昇トレンド中、
- 数日間のボックス/三角保ち合いの後、
上段を強く突破する大陽線+取引量増加
- エントリー:
- 三角保ち合いパターン、
ダブルトップ/ボトムパターン で見た
パターン完成区間でエントリー
- 三角保ち合いパターン、
- 損切り:
- ブレイクアウトローソク足の中間〜下段、
またはボックス上段再突破失敗区間の下
- ブレイクアウトローソク足の中間〜下段、
ブレイクアウトエントリーは:
- 「すでにかなり上がったような…」という心理的負担がありますが、
- トレンドの初動または再加速区間を捉えられる長所があります。
4. 決済とインバリデーション:どこまで保有するか?
トレンドフォロー戦略で最も難しい部分がまさに決済です。
一般的な原則は次の通りです。
- トレンドが終わったとみなせる客観的なシグナルを決めておく。
- それまでは「ただの調整」という仮定の下、
戦略的に保有し続ける。
4-1. MAベースのインバリデーション
代表的な基準は:
- 複数のローソク足が継続的にMAの下(ロング基準)で確定するか、
- MAの傾きが平らになるか折れ曲がり、
トレンド系インジケーター 上でトレンドが弱まったと判断される時。
これを部分決済シグナルとして使い、
完全決済は以下の基準と合わせて見る方法も可能です。
4-2. スイング構造ベースのインバリデーション
スイング vs 調整 の観点では:
- 上昇トレンド:
- 「高値・安値が切り上がり続ける構造」が崩れる時
- 下降トレンド:
- 「高値・安値が切り下がり続ける構造」が崩れる時
これらをトレンド終了の候補と見ます。
実戦では:
- MA離脱+スイング構造崩壊が同時に発生する区間に
- 最終決済またはリスク大幅縮小を配置する場合が多いです。
下の図解は:
- 上:上昇トレンドでMAに沿って動く価格と
途中の押し目・再加速区間 - 下:同じ区間でのスイング高値・安値と
最終インバリデーションポイントを表示した例
を合わせて示しています。
5. リスク管理とポジションサイズ
MA戦略は表面的には単純に見えますが、リスク管理 を破るとすぐに口座が揺らぎます。
特に次の点を必ずチェックしてください。
-
1トレードあたりの最大損失比率
- 1%であれ2%であれ、口座基準で固定されたリスク限度を先に決めます。
- 損切り幅が広がったなら、
ポジションサイズを減らすべきであり、損切りを遠くに動かしてはいけません。
-
連続損失の許容範囲
- ボックス相場ではMA戦略が
何度も連続損失を出すこともあります。 - 「自分が設計した戦略の特性上、
連続N回の損失は十分にあり得る」ということを
バックテスト・レビューで確認しておくのが良いでしょう。
- ボックス相場ではMA戦略が
-
追加エントリー(ピラミッティング)ルール
- トレンドが順調に続く時:
- 初動で一部エントリー、
- トレンドが確認されるにつれて追加エントリーをすることもあります。
- ただし、総ポジション規模が
リスク管理 で定めた口座あたりの総リスク限度を
超えないように制限しなければなりません。
- トレンドが順調に続く時:
6. どの市場・環境で使うか?
最後に、
MAトレンドフォロー戦略がいつ「道具」になり、いつ「罠」になるかを整理してみましょう。
-
時間枠(タイムフレーム)
- 基本的に4時間〜日足以上で
トレンド判断に使う方がより安定的です。 - 分足・ティック単位では
MA自体がノイズに振り回されやすくなります。
- 基本的に4時間〜日足以上で
-
市場構造
- 支持・抵抗の基本、
スイング vs 調整 で見たように、 - 上・下方向に明確なスイング構造がある区間で
MAトレンドフォローが意味を持ちます。 - 狭いボックスの中でMAだけを見て売買すれば、
短期的なノイズと戦うことになります。
- 支持・抵抗の基本、
-
インジケーターとの組み合わせ
- トレンド系インジケーター のMACD、DMI/ADXは
「今がトレンドフォローをするに値する環境か」を
フィルタリングするのに使えます。 - オシレーター のRSI、Stochは
MA付近の押し目が売られすぎ・過熱構造と重なるかを
追加で確認するのに役立ちます。
- トレンド系インジケーター のMACD、DMI/ADXは
7. 実戦適用前のチェックリスト
MAトレンドフォロー戦略を実際に使用する前に、
少なくとも以下の質問には答えを出しておくと良いでしょう。
-
今の市場はトレンド相場か、ボックス相場か?
(トレンド系インジケーター、スイング vs 調整 参照) -
私が使用するMAは
どのような役割(方向フィルター / エントリー基準 / トレーリングストップ)を担っているか? -
押し目エントリーとブレイクアウトエントリーのどちらを
主戦略として使うか? -
インバリデーション基準(トレンドが終わったと見る基準)は
価格・MA・スイング構造の観点で明確か? -
1回の取引、そして口座全体基準で
リスク管理 の観点からリスクが統制されているか?
次の記事では、
にて、MA-60(あるいは類似の長期MA) を中心軸に置き、
もう少し「スイングトレーダーらしく」設計したトレンドフォロー戦略を続けて見ていきます。